今日、経済評論家の三原淳雄さんが亡くなられました。三原さんには、私が日興證券に入社した頃からですから、20年以上にわたり、いろいろご指導を頂いて来ました。あまり知られていませんが、日本にFPを初めて紹介したのは三原さんでした。米国のニュービジネスについて書かれた著書の中で、日本においても有望なニュービジネスとしてFP(ファイナンシャル・プランナー)という職業を採り上げられたのです。
私は、FP的な営業を日興證券が取り入れるプロジェクトのリーダーになるために入社しましたので、米国のFPビジネスの状況をうかがうべく、三原さんの事務所を訪ねました。三原さんご自身が日興證券のOBだったということもあり、当時まだ若輩者であった私に対して、親切に長時間かけて、いろいろなお話をしてくださったことをよく覚えています。三原さんはその後もお会いするたびに、「自分がFPになる気はないけれども、FPの応援団として頑張る。日本人が投資にキチンと取り組めるようになるためにも、FPはとても重要な存在だからだ」とおっしゃっていました。
私が12年間勤めた日興證券を退職し、独立系のFPとして会社を立ち上げようとしていた1999年の1月に、新年のご挨拶を兼ねて三原さんの事務所を訪ねました。「今年は一歩、前に踏み出してみようと思います」と言った私に対して、三原さんは「『CHANGE is CHANCE』だ、頑張れ。できる限り応援するよ」と応えて下さいました。「日本は今が変革期、つまりCHANGEが進行している。『CHANGE』と『CHANCE』という単語をたてに並べて比べてごらん。『G』と『C』が違うだけだろう。『G』の中の小さな『T』を取ってしまえば、CHANGEがCHANCEに変わる。この小さな『T』は『taboo(タブー)』、『timidity(臆病さ)』の『T』なんだよ。一歩踏み出すには、今はいいタイミングだ」と説明して下さったのです。以来、「CHANGE is CHANCE」という言葉は私にとっての座右の銘になりました。三原さんは、独立したばかりの私たちに、出版社からの仕事も紹介して下さいました。
一昨年、弊社は創業十周年を迎えることができました。今思えば、独立のタイミングも良かったのだと思います。三原さんの「見立て」は正しかったわけです。十周年の記念として、お世話になった方々や弊社のお客様をお招きし、ささやかなパーティーを開催しました。本当にたくさんの方々のお蔭で十周年を迎えることができ、著名な方々にも数多くご出席頂いたのですが、乾杯前の最初の祝辞は三原さんにお願いしました。スピーチをお願いした時に、「もう10年たったのか、よく頑張った。そうか、俺が最初か」と嬉しそうにおっしゃって下さった様子が印象に残っています。
残念ながら、まだ「FPビジネス」が日本に定着したと言える状況にはありません。しかし、あちこちにFPビジネスの芽は芽生え始めています。私たちが三原さんの遺志を引き継ぎ、「日本人が投資にキチンと取り組めるようになる」一助となっていきたいと思っています。
永い間、お世話になり、本当にありがとうございました。心からご冥福をお祈り申し上げます。