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withコロナ時代の資産運用

前回、「仕事としての運用」は国際分散投資が基本であり、世界経済の成長が不可欠という話をしました。もしも、あなたが世界経済全体は将来に向けてシュリンクしていく、と考えるのであれば運用はやめるべきでしょう。

しかし、いずれはダメージを乗り越え、経済は再度成長していくはずだと考えるのであれば、ここで投資をやめるというのは間違いです。ただし、当面の間は成長が鈍化し、かつ市場のボラティリティが高い状況が続きそうです。こうした投資環境下では、どのように投資・運用を行っていけばいいのでしょうか。


◎ポートフォリオ構築中であれば投資の継続を

マーケットが大きく下落するような局面では、積立方式で投資を行い、ポートフォリオを構築しつつある人の中にも、売りたくなったり、積立をやめたくなったりする人が少なくないと思います。しかし、定額で行う積立投資は、価格が高い時には少ししか買えず、低い時にはたくさん買えるという、とても合理的な投資方法で、価格の変動幅が大きい投資対象ほど平均取得単価を引き下げる効果を期待できます。ひるまずに積立投資を継続すべきです。


◎ポートフォリオ構築済みであれば配分比率や商品の見直しを

すでにポートフォリオを構築済みで、ある程度まとまった金額で運用している人は、資産配分を見直すといいでしょう。今後しばらくは経済成長率の低迷が予想されること、また、過剰流動性相場の中、多くのマーケットでボラティリティが高めの時期が続く可能性が高いことなどを考慮し、ボラティリティが大きい株式の比率を下げることで、しばらくの間はポートフォリオ全体のリスクの低減を図るべきでしょう。

また、コロナ禍により観光や宿泊関連を筆頭に多くの業種がダメージを受けている一方で、リモートワークなど新たなワークスタイルの広がりにより、IT関連などを中心に、さらに成長が期待できそうな業種も出てきています。これまで高い成長率が期待できた新興国経済も、コロナ感染の状況や、米中関係の悪化による影響などが国により大きく異なるため、従来のようにひとくくりにして投資を行っていいのかを再考する必要が出てきています。インデックスファンドを中心にマーケット全体への投資を行ってきた人の場合、コロナ禍の影響を予測しながら、一部を有望な国や産業への投資へ切り替えることも必要でしょう。

 

◎これまで以上に資産運用が難しい時代に

コロナ禍の先行きはまだまだ不透明であり、米中関係の先行きなども含めて不確実性が高まれば高まるほど、ポートフォリオのリスクコントロールは難しくなります。さらに、アセットクラス間の相関関係が以前とは異なってきていることもリスクコントロールを難しくしています。現在は世界的な低金利下の過剰流動性相場で、投資可能な資金がジャブジャブの状態です。その資金が流れ込んだアセットクラスでは価格の上昇が発生していますが、逆に一斉に引き揚げられれば価格の大幅な下落につながるでしょう。以前異なる値動きを見せていたアセットクラスを組み合わせることだけでは、リスクのコントロール(ブレの抑制)が行いにくくなってきています。したがって、当面の対策としては、より多くの投資対象に分散投資を行う、あるいは、ポートフォリオのキャッシュ・ポジションをある程度高めに保つといった対応を考えるべきでしょう。

◎パンデミックによる株価暴落は未知のでき事

今年2月、北イタリアでの新型コロナウイルスの感染者急増をきっかけに、世界的に株価が暴落しました。今回の株価暴落は、私がこれまで経験した暴落とは全く性質が違うものといえるでしょう。従来の株価暴落というのは、リーマンショックなどもそうだったように、マーケットの中に何らかの原因があり、それによって引き起こされたものでした。

そうした暴落は、それなりに多くの人が経験してきたわけですが、今回のパンデミックによるこれほどの株価下落というのは誰も経験がありませんでした。コロナ問題の広がりや終息について先が読めないということもあり、驚きが恐怖に変わりながら暴落も世界中に広がっていきました。

経済を下支えしようと各国が行った大型の経済政策や金融緩和策により、株価は持ち直しつつありますが、これはかつてない規模の資金余剰状態を作り出し、その結果、行き場のないお金が債券と比べれば株式の方がまし、というような形で動いている状況といえるでしょう。コロナ禍自体はまだ全く終息のめどが立っていないわけで、いったん持ち直したとはいえ、マーケットの先行きが不透明な状況であることに変わりはありません。


◎個人の投資・運用への影響

こうしたマーケットの状況は、当然、個人の資産運用や投資にも影響を及ぼしますが、その影響は投資・運用のスタイルにより異なってきます。

以前もお話ししましたが、個人が行う投資や運用には、主に2つのスタイルが考えられます。一つのスタイルは、自分の相場観で、面白い、儲けたいと思って行う投資、いわば「趣味としての投資」。そしてもう一つのスタイルは、自分が頑張って働くのと同時に、ある程度はお金にも働いてもらいたいと思い行う、「仕事としての運用」です。

「趣味としての投資」を行っている人の中には、ボラティリティが高まった2月以降のマーケットの状況を、儲けるチャンスと捉えている人も少なくないでしょう。たとえ失敗して損を出しても、それを趣味にかかったコストとして支払っても仕方ないと考えられるのであれば、問題ないと思います。

一方、投資自体にはそれほど関心はないが、老後資金などへの不安もあり、お金にも働いてもらいたいという「仕事としての運用」を行っている人にとっては、今回のコロナ問題は迷惑以外の何物でもないはずです。

なぜなら、「仕事としての運用」の基本は長期国際分散投資であり、そのリターンの源泉は世界経済の成長だからです。ところが国際機関などの成長率予測を見ると、コロナショックにより今後しばらく、世界の経済成長は期待できないどころか、マイナスになることが予想されています。

そういった低成長時代にも「仕事としての運用」を継続すべきなのか、継続する場合には具体的にどう運用していけばいいか。これらの点については、次回お話ししたいと思います。

<投資観とは何か>

長期的にお金にも少しは働いてもらおうという「仕事としての運用」を行うためには、まず「長期」、「分散」、「積立」が何故重要なのかということをしっかり理解しておく必要があり、「趣味としての投資」との違いを認識した上で商品選択を行わねばなりません。

 

私はそれらについての考え方を総称して、「相場観」に対する言葉として「投資観」と呼んでいます。

 

 

■なぜ長期投資なのか

 

長期投資を行うべき最大の理由は、投資対象の成長には、ある程度の時間が必要だからです。

 

短期の売買では、利益を得る人の裏側には、損失を被る人がいるという、ゼロサム(誰かの儲けは、売った人が儲けそこなった分で、合計するとプラス・マイナス・ゼロになる)ゲームでの勝者を目指そうとする投機的な行為になりがちです。

 

しかし、長期的に成長し、価値が増していく企業などに投資を行えば、ある程度時間はかかるでしょうが、その企業の株主全員が利益を得ることができます。

 

これは企業の成長によって、投資している対象の価値がプラスサム(合計がプラス)になるからです。

 

投資の本質は成長にあり、成長する可能性が高いものに資金を投じてプラスサムになるのを待つ長期投資スタイルこそが、情報量や資金量ではプロにかなわない立場で、資産形成を目指す個人投資家にとって王道と言われる理由なのです。

 

(詳しくは入門講座の④をご参照下さい。)

 

 

■なぜ分散投資なのか

 

長期投資を行う場合に重要となるのが「複利効果」です。

 

運用期間が長くなるほど、複利の効果は高まります。

 

この複利効果を味方につける際にポイントになるのが、価格のブレ(リスク)の大きさです。

 

ブレの大きな運用では値下がり時に複利効果がマイナス側に働いてしまい、せっかく積み上げてきた資産を大きく減らしてしまうことにもなりかねません。

 

マーケットの状況に応じて儲かりそうなものを見つけようとすること以上に、値下がりに備えるためにできるだけブレを抑えた運用を心がけるべきなのです。

 

リスク・テイクを行う趣味の投資では、儲かりそうもないものに投資するなどということは考えもしないでしょうが、ブレを抑える(=リスクをコントロールする)ためには、儲かりそうなものだけでなく、あえて儲かりそうもないものを組み合わせたり、値動きの異なる複数の投資対象に分散して投資を行うことが最も重要なポイントになります。

 

 

それが分散投資を行うべき理由なのです。

 

(詳しくは入門講座⑤をご参照下さい。)

 

 

■なぜ積立投資なのか

 

いくら分散して長期的に運用を行うとしても、価格が高い時期にまとめて購入してしまうと、その後の値下がりを挽回するのに時間がかかってしまい、運用の成果も期待しにくくなります。

 

値上がりしそうなものを当てに行こうとする「趣味としての投資」であれば、安くなるのを待ってまとめ買いすることを考えるのでしょうが、いつが高いか安いかの判断や将来の価格の動きを予測することはプロでも難しいので、購入する時期を分けることが高値掴みを避けて、そこそこの運用リターンを目ざす「仕事としての運用」では、シンプルでありながらたいへん有効な方法になります。

 

また、投資を行った後に価格が下落を始めるとどうしても暗い気分になりがちですが、定時・定額買付け方式の積立投資であれば、価格が下がるとたくさん買えることになります。

 

その後に投資対象の成長に伴って価格が上昇を始めると、比較的早いうちから利益が出始めるのが積立投資の特徴といえます。

 

(詳しくはNISAの活用法(1)をご参照下さい。)

 

 

つまり、価格の下落時にはたくさん買えていると考えればいいわけで、値下がりに対する心理的なストレスをあまり強く感じなくてすむはずです。

 

運用に不慣れな投資の初心者にとっても始めやすい投資方法といえ、実は、定額買付けのスタイルは「仕事としての運用」にマッチしていると言えるのです。

入門講座④の「投機と投資」の中で触れたのですが、デイトレーダーが行うような「投機」的な行動ではなく、中期あるいは長期の「投資」を行う場合でも、「投資」にはハラハラ、ドキドキがつきもの、というギャンブル的なイメージをお持ちの方が少なくないようです。

 

それは投資という言葉を聞いた時に、ある程度のリスク(投資の世界では値動きのこと)は覚悟の上で大きな利益を上げようという、投資スタイルを思い浮かべてしまう人が多いからでしょう。

 

そこで今回は、投資にはもともと2種類のスタイルがあり、そのいずれかによって全く異なる行動をとる必要があるということを確認しておきたいと思います。

 

証券会社やメディアからの情報や自分の相場観などを頼りに、値段を見ながら興味のある個別銘柄などに対して中期または長期スタンスで投資を行い、値上がりを楽しみに待つ投資スタイルを、私は「趣味としての投資」と呼んでいます。

 

この投資スタイルは、もともと趣味は楽しむものですから、それを面白いと感じ、ワクワクする人が行うのが一般的で、うまくいけば利益を得られますが、仮に損失を出したり、最悪ゼロになったとしても、趣味なので仕方ない、次回頑張ろうと諦めるしかないでしょう。

 

本来、趣味は旅行にしてもゴルフにしてお金を払って行うものが一般的だからです。

 

日本人で投資に興味を持っている人は、10人中1人か2人といった割合だと言われています。

 

 

一方、投資には、地道にお金に働いてもらいたい人が行う「仕事としての運用」とでもいうべき、もう一つのスタイルがあります。

 

こちらは投資を面白いとは感じない人でも、少なくともやり方だけは知っておくべきだと思うのですが、そんなスタイルがあるということを知らない人がほとんどで、実際に実行できているのはごく一握りの人たちだけというのが実状です。

 

具体的には、将来的に成長が期待できそうな投資対象に分散して長期投資を行うことで、途中で大きくマイナスにならないようにリスクをコントロールしながら資産形成を目指そうとするものです。

 

趣味ではなく仕事なので、将来のライフプランなどをもとに商品の組み合わせなどを考えてスタートしてしまえば、その後はあまりワクワクするようなことではなく、むしろ退屈で面白みのない運用ともいえるでしょう。

 

この仕事としての運用を行う人に求められるものは相場観や売買タイミングの判断ではなく、お金にしっかりと働いてもらうための「投資観」(後述)といえます。

 

私たちFPがお勧めし、アドバイスする投資は、この「仕事としての運用」の部分が中心となります。

 

お客様の立場からすれば、退屈で面倒な運用だからこそ、ある程度費用はかかってもプロである我々に任せる意味があるということにもなるでしょう。

 

ファンド・ラップでかかる年2%程度の手数料も、この面倒な管理や状況の報告にかかるコストといえます。

 

ファンド・ラップに1000万円投資すればファンドの信託報酬以外に毎年20万円程度を支払うことになります。

 

これらのコスト水準と比べれば、現状、弊社の場合には定額でFP顧問料として年間10万円(税抜)、またはFP会員の会費として年間3万円(税抜)を頂いていますが、安いと感じて頂ける場合も多いようです。

 

「趣味としての投資」と「仕事としての運用」の違い

趣味としての投資と仕事としての運用1.jpg

 

最後のポイントとして、ポートフォリオ運用では、定期的に「リバランス」をすることが重要です。

 

リバランスとは、ポートフォリオ運用を行う際に相場の変動によって変化した投資配分の比率を、ポートフォリオの一部を売ったり、買い増したりして、元の比率に戻すことをいいます。例えば、当初4つの商品を25%ずつ均等に組み合わせて分散投資を始めても、値上がり、値下がりによってその比率は変化していきます。それを、当初設定した比率に意識的に修正するのがリバランスです。リバランスを1年に1~2回程度行うと、さらにマイナスを被りにくくなり、リターンの向上につながる可能性が高くなります。

 

リバランスと対照的な比率変更の考え方として、「リアロケーション」があります。日本株による運用が好調なのでさらに比率を高めるというように、相場の状況を見極めて、機動的に各資産への投資比率を変更するという方法です。一見、合理的に思えるこの方法では、結局は運用成果は相場次第というポートフォリオに変更することになり、大きなマイナスを被る可能性を高めることにつながりかねません。自分自身の相場観を持つ、投資の中~上級者になって初めて行うことと思っておいた方がいいでしょう。

 

個人投資家がマネーゲームに翻弄されないためには、感覚的に「いまが買いだ」と判断して集中投資をするのではなく、戦略的な資産形成を考えなければいけません。そうすれば、株式相場の下落局面でも慌てずに投資を続けることができるからです。失ってはいけない、まとまったお金の運用を考えるのであれば、少なくとも12年かけて、じっくりと「負けにくい」ポートフォリオを構築するべきだといえるでしょう。(完)